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沼地伝道

  • 執筆者の写真: 秋山善久
    秋山善久
  • 9月20日
  • 読了時間: 2分

更新日:9月27日

 キリスト教を受け入れない日本の精神風土を、沼地にまかれた種に例えたのは作家の遠藤周作氏でした。確かに隣の国である韓国と比較すれば、キリスト教のスタートは同じなのに、教会数にしても信徒数にしても、今に至って日本では圧倒的な少数に留まっています。

 そんな現状を受け入れながら、最近、子どもの頃、我が家の田んぼで母が稲作に格闘していたときの情景が、しきりに頭に浮かんできます。戦後の農地改革がされた後も、我が家の耕作地はとても狭いものでした。そのため、耕作に適さない土地であっても、必然的に耕作しなければならない。その中に殊更に水捌けの悪いヒドロと呼ばれる、暗渠排水のない田んぼがありました。そこは一旦、足を踏み込むとズブズブを体が泥の中に沈み込んでしまう沼地です。一人で作業をしていたら、助けを呼ばないと抜け出ることができなくなる程に危険とされていました。それなら耕作しなければいいのですが、我が家にはそんな余裕はありませんでした。それ以上に、そうした猫の額程の土地でさえも、母は自分の領分と考えていたようです。

 夕闇が迫ると、胸のあたりまで泥に沈み込んだ母の体は、人と分からない程に黒い塊に化していきました。わたしは畦道に立ち尽くしたまま、恐怖に怯えながら、「早く家に帰ろう」と、弱弱しく声をあげているのでした。それでも母は、一向に手にした稲の苗を離そうとはせず、「だいじょうぶだあ」と黙々と植え続けていました。

 母が亡くなって30年が過ぎ、わたしの齢は既に母より5年も長生きしています。それでも、あのしぶとさにはかなわないなあと感じるのは、自分の取り組みのどこかに引け目があるからでしょう。せめて沼地であることを諦めない母の姿勢は、自分なりに引き継ぎたいと思っています。

 
 
 

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